23.下町の災害対策本部設立までの物語を作るにあたり

平成25
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下町の災害対策本部設立までの物語を作るにあたり

これは、指定避難所湯島小学校の16町会による避難所運営協議会に属するCブロック4町会(天神下災害連合会)が、激甚災害に見舞われたことを想定したCブロック災害対策本部及び避難所設置にストーリー性を持たした訓練に役立てようと作成したものです。この物語に、各人の予想される状況におけるシナリオを想像して加えたりして、より実践的なシナリオにして利用してくだされば幸いです。一方、役所の防災課は、学校サイドと指定避難所の見取り図や耐震性、備蓄品、資機材等から考えられる理想的な校舎各室の利用方法の案を出し、学校、役所の考えを集約して自主防災組織と共通認識が持てるよう早急に対処しなければなりませんが、二年も費やして全く進歩していないのが現状です。避難所の基本は、学校にいる職員・避難者・要援護者・乳幼児等の弱者と、それらに付き添ってくる健常者で作る指定避難所本部設置までのモデルを提示して欲しいと考えています。それらを、周辺の各町会が協力して同時多発的に発生する出来事に対処する手段やその限界といったものを導き出したり、訓練から検証するといった手法を試みられてはいががでしょう。それには、役所、災害行政、自主防災組織(町会、商店会)、その他の住民や事業所を加えた実務者による協議が必要でしょう。その為には、早急に役所と学校が訓練に対する態度を改めることだと感じました。

大災害後、一年と9カ月経ってやっと小学校避難所運営訓練概要(案)を文京区から御示し戴くとともに、学校に避難所が開設された場合における施設利用計画基準を検証しましたが、その内容は全く現実的ではなく過小に見積もられているとしか思えません。16町会に居住する住民7500人から8000人程度に加え、地下鉄駅、バスや自動車に乗車している人達、買い物客や各事業所社員の数を考えれば、その全てを指定避難所である学校へ誘導することはできません。そうであるならば、当該避難所運営協議会のように弱者優先に収容を考え、健常者は基本的に4つの各ブロック災害対策本部を中心として災害活動を行うものとしてルールを決めてはいかがでしょう。当該協議会も、昨年より指定避難所での本部設置ならびに立ち上げといった実践的な訓練を要求してまいりましたが、訓練に協力的であるはずの相手側の事情で実施することが出来ませんでした。その後も、再三、防災課との協議を行った結果、2年越しに指定避難所での本部設置訓練が実現するかもしれません。しかし、いまだに学校の利用やシナリオの完成時期を巡り役所・学校・協議会との間に災害に対する認識の違いがあり、2年間要求してきた訓練を中止、又は、延期せざるを得なくなりそうです。これは、文部科学省、東京都教育庁が言うところの、東日本大震災の被害を踏まえた緊急提言と合致しているとも思えないのは、我々だけでしょうか?予想震度は6強の激震を想定しているのであるなら、より現実的な計画やマニュアル及び訓練に必要なシナリオ等を決定し、広く住民、事業所に周知する必要があり、そのことをもって住民意識の高揚を図らなければ、これまでの行政側主導の訓練同様に興味すら失うことになりかねません。そのためにも、東京が被災した場合の現実をリアルに知らしめ、自助・共助の必要性をより認識させる必要があります。その為にも、災害関係行政、民間事業所、商店会、町会等の自主防災組織、地元町会に住まう住民全てが参画・連携した訓練を行うとともに、訓練等により実践的な課題の発見や脆弱なところを改良するといった検証を行う形の訓練に転換を図らなければ、机上による計画の仕組みや対策が具体性を失ってしまいます。極端に言えば、何時になれば支援・救援を受けられるか確実なことが言えない事態が発生したならば、人命救助と消火活動を第一義としながらも同時に、学校や町に設置する災害対策本部や避難所本部に集まる人々の兵站・寝食の担保を優先するという作業が求められます。要するに、街にある全ての無事な建物や食料を利用するといったような意識を住民や事業所に事前に持って戴くといったリアルな対応が求められると考えます。激甚災害とは、そのくらいの覚悟と準備をしなければ、見知らぬ鵜号の集を統卒して共助に向かわせることは難しくなるのではないでしょうか。激甚災害と言える事態においては、役所等も当然、これまでの災害での経験を教訓にして日常のルールが救助・救援を妨げることなく災害関係行政の実働部隊が動き連携できるよう弾力的な運用がされ、今まで以上に早く救援が行われるか心配です。災害関係行政が混乱すれば、直接、区民の生命に係わってきます。東京や関東は非常に広い極度に電脳化された都市です。3500万人に対する行動計画は充分とは言えないかもしれません。

2年間にわたり、避難所運営協議会に携わってまいりましたが、私は、自主防災組織と学校、役所、警察、消防、自衛隊といった災害関係行政の実務者が一同に集まって災害発生時の現実的な対処についての共通認識を確認しあうことが必要であり、減災や二次災害を防ぐことにつながると信じています。そのうえで、初期消火、救出行動といった生命に係わる活動と、要援護者指定避難所搬送や負傷者の病院搬送に加え、飲料水の確保が初動で必要であるとともに、外国人やホームレスまでを含む多数の被災者対策といった地域特性を考え、住民主体による避難所の運営管理とそこで発生する様々な課題を想定してストーリーを考え、机上訓練、ブラインド訓練等を繰り返し行なうことで、その過程から新たに発生するであろう問題やリスクマネジメントまで考えるといった考え方が理想だと思います。しかし、災害発生から救助等までの行動が俯瞰的に理解できるような表方式で表現する自治体。災害発生から、同時に様々な場所で起こる出来事の関係やつながりから発生する事象を予測したりする場合を想定して、フローチャート方式を採用している自治体も多く見られます。以上の二つの方式による想定を自主防災組織災害対策本部や指定避難所運営協議会に提供することだけでは、より現実的な訓練に結び付くとは思えないのです。自分たちの地域特性に合った災害時マニュアルを作成するためにも、シナリオを作成して実践的な訓練を繰り返す必要があります。何故かと言われれば、東京は余りにも大きいからです。被災者数、救援者数、高度に電脳化された都市、見知らぬ人達の集団、多くの高齢者等といったことを冷静に御考えいただきたいと思います。

湯島の十六町会にお住まいかお勤めの皆様へ

現在の湯島小学校避難所運営協議会の現状は、実際に起こった事例を参考に当該小学校における地域事情を考えたケーススタディーを本格的に議論したり、論題に対して、思いついたことを自由に発表するといった避難所運営におけるニーズやアイディアを引き出すといったブレーンストーミングのようなことは行われていません。故に、それらを基にして有る程度知識を持った人達による討議(ラウンドテーブル・バズセッション)も行われていません。湯島小学校・運営協議会事務局・文京区防災課において訓練開催をどうするかと言ったことが話し合われているのが現状です。どうか、皆さまも協議会メンバーと一緒に考え、どんなことでもいいですから意見や考えをお聞かせのうえ参加されますことを期待いたします。

2年に及ぶ文京区防災課との協議や事務局会議から見えてくるのは、彼らが彼らの枠組みの中で彼らの施策実現という彼らの利益にかなうよう湯島小学校避難所協議会を都合良く利用しようと思っていたようにも思えてなりません。我々の立場からここまでの協議内容を振り返ると、行政側の指導による過去の因習のような区民が興味も持たない非現実的な訓練からの脱却が目的であり、避難者が中心となって自助・共助の精神を発揮して避難所を設立運営するといった現実的な訓練を行うために、何百時間もかけて検討したうえで事務局会議で一通りの方向性を見出し、何度となく文京区防災課と協議会会長・副会長で確認しあってまいりましたが、十二月も末になってどうやら雲行きが妖しくなってきました。訓練予算獲得、シナリオ作成依頼と入札、少ない職員数、職員組織を迂回して消防署や警察署との関係を深めることへ苛立ち、人事の交代、初めての手法による時間と手間の掛かる訓練への危惧に加え、日常業務範囲を超えないといった職員の生態が区民の利益と相反してきたように思えてなりません。様々な地震災害の実態を鑑みれば、区民の為に少しだけでもリスクをとる勇気を持って心を開き、区民のために腹を割った行動ができないものでしょうか?いざ激甚災害発生となった時を考えれば、区民は、今もってまともに現実的訓練が出来ないような組織に委ねなければならないのでしょうか?激甚災害といった非常事態が発生した場合、文京区民の命運は最高指導者の行動いかんにかかってきます。イコール区長に人格化されるともいえるでしょう。危機に際してもうろたえるような湯島産のトップにだけはなって戴きたくないとの思いを込めて。

天神下四町会災害連合会の皆さまへ

平成24年11月28日、文京区防災課にて初めて湯島小学校避難所運営訓練概要(案)を見せて戴き、要求していた学校を避難所として開設した場合における施設利用計画基準等を見せて戴いた。しかし、その内容は東日本大震災後に湯島小学校避難所運営協議会16町会の町会長が集まって議論を重ねてきた内容とかけ離れており、全く現実性に乏しいばかりでなく従来の行政が行う訓練の枠内といったお粗末なものでした。震度6強以上であれば想定外でしたと言い逃れしようとするかの計画にしか思えません。少なくとも直下型地震に見舞われる激甚災害を想定するのであるなら、より現実的な計画やマニュアル及び訓練に必要なシナリオ等を決定し、広く住民、事業所に周知して訓練する必要があり、そのことをもって住民意識の高揚を図らなければ、行政がこれまで繰り返してきた訓練同様に区民の興味すら失うことになるでしょう。そのためにも、東京が被災した場合の行政対応の現実をリアルに知らしめ、自助・共助の必要性をより認識させる必要があります。災害関係行政、民間事業所、商店会、町会等の自主防災組織、地元町会に住まう住民全てが参画・連携した訓練を行うとともに、訓練等により実践的な課題の発見や脆弱なところを改良するといった検証を行う形の訓練に転換を図らなければ、計画の仕組みや対策までも具体性を失ってしまいます。極端に言えば、何時になれば支援・救援を受けられるか確実なことが言えない現状で、住民を中心とする多くの被災支援者がパニックを抑えて人命救助と消火活動に始まり寝食までを確保するという、現状では不可能と思われる活動を実行することになります。基本的には、町にある全ての食品等災害本部が必要とする物は、たとえ個人のものであっても地元災害対策本部に供出するといった意識を地域住民や事業所に事前に持って戴くといったような、激甚災害におけるそのくらいの覚悟を求めなければ、顔も知らない被災者に一定の安心感を与え、支援者として統卒して共助に向かわせることができるでしょうか?激甚災害時の非常事態と言える状況においては、役所等も当然、これまでの災害での経験を教訓にして、日常のルールが救助・救援を妨げることなく災害関係行政の実働部隊が動き連携できるよう弾力的な運用を行わなければなりませんが、横の連携は進んでいますか?約3500万人に対する自衛隊10万人を中心とする作戦はどんなものでしょう。首都近郊の大災害は戦争に等しいように思えてなりません。人が人でなくなる前に、統卒の執れた共助の集団を組織しなければ・・・・。広く、非町会員・非加盟マンション管理組合や管理組合の無いマンション・非加盟事業所等を含む、我々天神下4町会連合会や避難所運営協議会に関わる方々から御意見を求めます。

文京区が、昨年末に計画を見直したとして区内全ての避難所運営協議会を集め説明がありました。しかし、その地域防災計画は、文京区の行政機能が健全としていることを前提として作成された、あくまで見直した計画であり実現性についてはこれからの課題であるばかりか、行政機能が麻痺してしまった場合を想定したものではありませんでした。又、関東被災人口を考えたうえでの日本各地からの支援を受ける受援計画や各区と連携した計画が策定されているのかと言えば、全くといってよいほど考えられていないといった印象を受けたのは私だけでしょうか?災害時において、各区の行政機能が健全であろうがなかろうが、支援を受ける受援計画がどうなっているのか具体的には全く知らされていません。震度6強で被災したと考えてみてください、区内の情報を把握して、行政職員だけで支援を受け仕分けを行い配送まで出来るのでしょうか?国や東京都が完全に各区からの支援要請を集約して行うのでしょうか?東北の様に、各県が姉妹都市等支援要請をいろいろな所へ発信しても被災地からの情報も乏しく、かえって支援する側の統制が混乱しマッチメイクに支障をきたすようなことにはならないでしょうか?そうならない為に、広域で人口が集中する東京に対し、各支援組織毎のコーディネーターが相互に通信できたり、早い段階で一同に会するといった体制が望まれ、現場の先遣隊や自治体からの情報を評価して適切な指示を発令できるような仕組みが必要と思うのですが、文京区が関係行政や各自治体と実務者同士が話し合い強固な連携を模索しているようには思えませんでした。これは、区内においても同じことが言えます。各地域の災害対策本部や避難所が情報を正確に文京区に伝えることが出来れば、区も情報を集約できるかもしれませんが、残念ながら確実な通信手段が構築されておりません。(火災発生・道路情報・避難所開設・救助要請等)仮に、情報を集約できたとしても、その後の文京区の動きは情報収集、評価、指令とそれに基づく行動を行う人員が確保できるかになります。職員だけで、到底無理からぬことではないでしょうか?

区の防災計画は震度6弱まででありそれ以上は想定外か?

災害時における基本的な情報や物資の流れと供給体制を考えてみようと思います。救援物資の供給は基本的に多段階の集積所等を経由して被災者に届けられることになります。 ①被災者そして避難所等からの物資の要請が文京区の災害対策本部へと情報が送られる。(指定避難所以外に、各町会や自主防災組織が避難所として宣言することで避難所数が劇的に増えるでしょう。) ②区の災害対策本部では、区内レベルで設置された二次集積所の在庫を引き当てて、避難所等に物資を輸送・供給するよう指示を出す。不足する物資については、東京都の災害対策本部に供給の要請を行なう。(圧倒的な被災者数から考えると国レベルの支援が遅くなれば生活どころか命にまで影響が出るでしょう) ③区からの要請に応じ、東京都の災害対策本部では、一・二次集積所の在庫を引き当てて、避難所等に物資を輸送・供給するよう指示を出す。不足する物資については、国(主として内閣府)あるいは提携自治体・企業等に供給の依頼を行なう。 *これも、行政機能がある程度健全でそれに係わる人員が充分に居て、道路を啓開する作業や人命救助等が少なくて済むことが前提ではないでしょうか?これが、激甚災害となれば、今までの手法では必ずといって良いほど色々なところで「区機能低下と情報収集の遅れ」「緊急自動車専用路の啓開作業の遅れ」「支援行政間及び実働機関間の連携が乱れ統卒した行動が取れない」「輸送体制混乱から必要な物資を適切に集め配送することが出来ない」「ガソリンを実働部隊に適切に供給出来なくて支援に支障がでる。」「支援と受援行政間調整困難による遅れ」「物資が停留してしまう」「病院における入院患者継続医療と災害医療の困難」ということが起き、「被災者に物資が届かない」「支援が遅れる」といった事態が多発します。更に、区内でも同様の混乱が発生するでしょう。現段階の文京区の説明からでは、支援物資の荷役・保管・仕分けを効率的に扱うための適切な施設や人員の確保はどれ程の時間を経過すれば機能するのかも判りません。東京のライフラインが途絶した中で、行政側が被災や人命救助・救急を優先せざるをえない混乱状況において、住民の生活支援はいつのことになるのでしょうか?結局、区の防災計画震度5強もしくは6弱以上は想定外で済まそうとしているのでしょうか?東京直下の地震想定を震度7にして危機管理や計画を建てて、災害関係行政が著しく被災した場合を考えたオールジャパンの支援体制を確立することが危機管理ではないでしょうか?もし、それが震度6弱で行政が機能すればそれはそれで良いことであり、機能する範囲は危機とは言えないものではないでしょうか?東日本大震災では例外的に、遠野市にできたストックヤードが物資を各方面に効率的に供給したという事実が残り、これを全国的モデルとすることで活路を見出して欲しいものです。 つまり、東京を中心とする地域の供給体制全体の「ロジスティクス」を大きく見直す必要があるのではないでしょうか。  *この様な物流の流れとは別に、大震災において自衛隊の協力で日赤・災害派遣医療チーム(DMAT)等は、初めて協力体制の必要に気付き、素早く展開できたと思っています。それでも、報告を見ると多くの課題があったことは否めません。やはり、自衛隊を中心とする統卒の執れた支援組織が中核を担う必要があるのでしょう。民間業者であれ、ボランティア組織であれ全てを包括した、各ストックヤードにおける自衛隊を中心とする完結型チームを多数創設する必要が望まれるところです。

どうか、この高度に電脳化した巨大都市東京が激甚災害に見舞われた場合を冷静にお考えくださることを切に願っております。

想定外のBig Earthquake(大地震)

東京、その利己的な遺伝子の集合体

2015年11月10日、十時二十五分 東京春日区湯沢天津神三丁目町会

十一月だというのに、朝から秋晴れのような温かい天気だ。 地球が温暖化へ進んでいるんだろうか?それとも氷河期に入る前触れか? 娘を自転車に乗せ散歩に出た、地元商店会の青年部長栗橋はハンドルに違和感を感じ自転車を止めた。三月十一日以来、再三繰り返す地震には敏感になっている自分の感覚を信じている。揺れがおさまったのを確認し、娘とともに急いで自宅へ戻り、朝から使用していたパソコンで気象庁のサイトを開けると、「茨城県北部を震源とする震度5弱の地震が発生していた。」最近、新聞で独立行政法人 防災科学技術研究所が房総半島沖のスロー地震について気象庁と協力して監視を始めていることを知っていた栗橋は、一抹の不安を感じ先輩である地元自主防災組織の委員長落合が言っていた、気象庁のホームページから最近の東北・関東の地震情報調べた。そこには、最近一カ月の東北から関東にかけての地震が掲載されている。 「桂子ちょっと来てくれ」 思わず妻に声をかけていた。 「どうしたの、何騒いでいるのよ」 二階で娘を着替えさせていた桂子がおりてきた。 「最近一カ月でこんなにいろいろな大きさの地震が続いているなんて初めてだよな。」 栗橋が画面を見せると、桂子も始めて見る地震発生の頻度に驚いた様子で。 「これって、もしかしてまた地震が来るって言うんじゃないわよね」 佳子の背中に悪寒が走る。 「だから、近い将来に大きな地震を心配してるから、落合さんが自主防災組織の強化を急いでいるのかな?」 地元では、今まで災害への関心が薄かったが、今年になって落合が防災を引き受けてから騒がしくもなり、東北大地震もあったことから巷でも世間話の中心に防災が出てくるようになっている。 「つい先日、町会の田所副会長に青年部が防災組織に協力するって話したばっかりだよ」 あらためて地震発生の画面を見た桂子は。 「若い人達も落合さんにばっかり任せていないで、大勢で協力したほうが良さそうね」 「でも、-みんな働き盛りの現役ばかりだから、会議なんかは年配の人達が受け持って、訓練にはなるべく若い俺達が参加するようにしてるんだよ。」 栗橋は、落合の言葉を思い出し。 「東京で大規模災害が起これば、同時に被災した行政サイドが必死に救助や支援を行おうとしても、被災者ひとりひとりに支援が行きわたるようになるには3日どころか相当な時間を必要とするんじゃないかと言われたよ」栗橋の言葉に佳子が 「えっーえ、役所は3日分って散々言っているじゃない。」 「過去の例でも、役所や避難所と自衛隊、消防、警察で指示系統が違うことから連絡を取り合うことが物凄く遅くなって、避難所への医療チーム派遣や病院搬送を行う救援部隊や自衛隊の支援到着が遅れたようだね。今回の東北でも、内陸部の拠点病院へは医療チームが早く展開できたようだけど、沿岸部の避難所へは、外国の医療チームが数多く入っていたのが報道されてたじゃないか。要するに、普段の自分達だけの物語だけに頼って生きることが無理になり、緊急事態という新しい未経験の物語が始まると覚悟が必要かも?」 主人を励まそうとして話したことが、かえって心配を呼び込んだ佳子は 「このへんは繁華街も近く、いろいろな人が居るけど大丈夫なの?」 「そうなんだよ、この辺は地震が来たら時間にもよるけど、住宅街と違い町に訪れる人や外国人はともかく、上野の山や池の端に路上生活者が大勢いるといったようにいろいろな人が混在する場所だから心配なんだ。」 「言葉が通じないうえ、個人主義的に要求や権利を主張して自分自身を優先する人が多かったら大変ね。あなたが青年部をまとめる以上に大変そう。今まで防災に取り組んでなかった親会と協力して上手くやっていくとしても気が遠くなるほど大仕事じゃない。」 ずばりと切りこんできた妻に栗橋は 「その通りだよ、団塊世代と僕達の間に大きなジェネレーションギャップがあるんだ。」 「それって、商店会や町会の一種の村意識みたいなものじゃない。」 はっきり言われて栗橋は戸惑いを感じた。 「そこを繋げないと町が途切れる可能性が大きくなるし、親会に文句を言っている部員も少なくないから、軋轢が生まれないように努力はしているよ。だって、今、地震が来たら俺がリーダーやらなきゃなんないからな。」 「それって滅茶苦茶大変ね。ところで今は誰がクッション役なの?」 「副会長の田所さん、魚屋さんの大山さん、和菓子屋の滝口さん、榊本さん、高石さん、林原さんで、特に、洋輔の親父、西園寺君の親父、川内君の親父といった還暦前のこの三人の同級生は若い世代に理解を示してくれるよ。」 「そんなに理解者がいるのに、どうして浅草や上野みたいにまとまって町のこと出来ないのかしら」 なんだか自分が怒られてるような気分になりながら 「イベント以上に防災は終わりが無いほど大変だからじゃないか。浅草や上野も防災は怪しいかもよ。洋輔の親父に、俺がリーダーになった時のことを思ってアドバイスされたのは、非常事態のリーダーシップについてだけど、柔軟な対応や頭が求められるだろうが、学校内避難所の秩序が乱れそうであれば断固強い命令を毅然として発する勇気を持って欲しいと言われ、一方で、「国から権限を与えられた訳じゃないが、多くの人を短時間でまとめて行かなければならないことを思えば、ある種、専制的にならなければ難しい半面、個人がその他大勢に対して一定の命令を下すといった権力の行使について、それが、集団に対して合理性に基ずくものであったとしても、状況の変化によっては柔軟な対応をして欲しい」と言ってたな。余り考えない輩が、俺の言ったことをイデオロギーやドグマ(教義)のように受け止めて、リーダーが言ったから何でも何時までも絶対なんだと出てくるかもしれないからね。」 「結構、難しいそうね。でも、あなたなら大丈夫よ。」 そのことを誰よりも判っている栗橋の耳には妻の言葉がきつく響いている。

栗橋達青年部が主催した今年の「ちびっこ広場」は、東北の後だけに防災を組み入れて開催。起震車、煙のトンネル、水による消火器の扱い、安全ベルトを利用した回転椅子、乗馬等が子供と母親達に非常に受けていた。まるでアトラクションのつもりのように喜んでもらえている。起震車の操作をした区職員は、春日区始まって以来の大盛況だと言い、消防もブースにモニターを持ちこんで東北地震を写したり、防災や火災について紹介し大変喜んでいた。もしかしたら、防災訓練のあり方として大きなヒントになるかもしれない。

そのころ、避難所運営協議会16町会を四つに分けた中の一つである、Cブロックの防災組織の委員長を兼任してから休まることのない落合は、昨日のBブロック主催による介護支援センターで行われた介助セミナーにも参加。今後の防災組織と役所との協力関係について、湯沢小学校避難所運営協議会会長の向山と毎日のように電話で話をしていた。 「おい、落合君揺れていないか?」 落合は、東北大震災以来、天井からタコ糸で五円玉を吊るしていたので直ぐに振り返ってみると確かに揺れていた。自宅には、玄関の近くに避難袋3つ、最近装備したのが寝室に靴と洋服、手の届く所にランタン、懐中電灯、バール、貴重品ケース、投げる消火剤。納戸には、飲料水やアルファア米等食料品等10日間程度の防災用品を追加準備している。 「あれ以来余震が続いてますね、大きいのが来なければいいのですが?」 「そうなんだよ、電磁波ノイズを調査して地震予知をしているNPО法人国際地震予知研究会というところで、VHF波とかFM電波の大気中の異常で地震との関連を調べている団体が今年の十二月から来年一月にかけて三陸沖の日本海溝の外側で大きな地震が発生する可能性があるといっているんだよ」 「ネットで見たんですが、北海道大学の森谷教授が私見だと断っていますが、VHF波の地震観測で八カ月続いた大きな地震エコーが一月に入り弱くなり三月九日にM7の前震が起こり、東北地方太平洋沖地震へと繋がり、それ以来、地震発生前と同じような地震エコーが再び続いているとホームページや週刊誌で取り上げていますよ」 調査好きな二人の会話は続く 「でも、確実に予知出来るかと言えばまだ正確性に欠けるようだけど、心配は心配だね」と向山が言うと。 「僕は、近い将来に東京直下の地震が来るとは思っていないんですよ。先日、東大の地震研究学者のロバート・ゲラー教授が、日本の地震研究が欠陥を抱えた確率論的予測について批判していた記事を見たんですよ。それで、ネットで調べたら地震予知に関わる日本の御用学者が比較的新しい理論の地震空白域仮設に非定的だったことがわかったんですけど、プレートテクトニクスというプレートがマントルの対流に乗って動くと言う理論を提唱している人達に行きあたったんです。日本の研究者も居て、随分前から意見をしているようですが、日本の地震予知を牛耳っている人達に受け入れられてないようです。」 「俺も聞いたことがあるよ。木村って言う人じゃない。」 「そうです。その木村さんを追いかけて行くと、東京直下型地震の要素は非常に少なくて、むしろ、富士山の噴火の確立のほうが心配なようです。」 「まぁ、俺たちにとっては、地震であれ噴火であれ災害には変わりが無いってことだよね。」 「そうですね。ともかく、地域の防災体制や災害に対する認識を高めるといったことでは変らないですからね。」 「スロー地震が房総沖で頻発しているようだけど、そのへんはどうなんだろう。」 「木村さんは、確かに房総沖に空白域があるけど、彼の考えである地震の目といった予兆は見られず、むしろ、小笠原から鳥島にかけての空白域に地震の目が存在すると言ってましたよ。」 「それが、どのくらいか判らないけど、津波の心配はあるかもしれないね。それと、富士山周辺や浅間山の噴火に注意が必要だね。」 「ともかく、氷穴の異常とか湧水の異常とか低周波地震といったことが言われているだけに、地震より噴火が先に起こるかもしれないね。」 「そう思うんですよ。東京の場合は、地震であれば津波の心配。噴火であれば火山弾と言うのか火山礫なのか良く判りませんが、火山灰も加えて考える必要があるように思えるんです。」といったように、二人の話は尽きない。

落合は、向山と五月以来避難所運営協議会を事実上引っ張ってきたが、春日区防災課との訓練方法の違いに最近モチベーションが下がっている。住民自らが行う、一定の責任と役割を果たす参画型防災訓練である避難所設立のブラインド型訓練を行いたい避難所運営協議会と、今まで全く災害時に役にたたない訓練を繰り返してきた役所との考え方の違いがはっきりしてきたからだ。手段はどうあれ、役所が本当に住民の事を考え行動を起こすならば、おのずと、やらなければならないことは決まってくるだろう。「リアリティーのある訓練」しかない。

「ここまで強引とも思えるぐらい協議会やブロックを引っ張ってきたのに、いきなり地震に襲われたりしたらたまりませんね」落合が苛立っている。 一向に協議会の意見を理解しない役所に対する不満と怒りを貯め込んでいる落合だが、向山も同様に会長就任以来、役所の返答に憤りを感じている。しかし、自分の疲れや身体も心配だ。ご多分にもれず向山は血圧が高く肝機能もくたびれている。年下の落合も血圧が高く無呼吸がひどいらしい。連日のストレスと高カロリーと不摂生が原因だろうが、あまりにも豊かになった日本を象徴するような典型的な二人である。落合はシーパップという無呼吸の治療用マスク「シーパップ」を着けて毎晩寝ているらしい。 「そもそも、地震が来ないこと祈りながら、防災を推し進めることに多少の矛盾を感じないではないけど、役所がブラインド型訓練から手を引いても我々やる気のある町会だけでも防災を続けて行くんだろう」 言っているそばから自分も爆発しそうだ。 「もちろんです。だけど、築地に事務所があった私の友人二人は、都内が不安だからと事務所も住まいも東京都下に引っ越していますよ。揺れない所があるらしいですよ。」落合は、ちょっぴり東京を離れた友達をうらやましと思っている。 「人それぞれだな。ところで、春日区だけど平成二十四年度予算編成方針について八月三十一日に発表した『本区は、防災対策の強化などの東日本大震災によって明らかになった課題に果敢に取り組んでいかなければならない』とまで言い切っているのに、住民の為のブラインド型訓練の僅かな費用もやりくりできないで、今後、何をやろうとしているのか区民側も注視しなければいけないね。それに、春日区に限らず全ての自治体は、いますぐ災害マニュアルを見直す必要があるよね。」 行政が地震に対して甘い気持ちのままなので、自然と皮肉めいた言葉が多くなる。 「本当ですよね、区庁舎の防災対策なのか住民の為の防災対策なのか判らないどころか、相も変わらず見学型の域を出ない訓練を今年もやらかして、それで満足しているようにも見えますよね。区長の思いとは裏腹に職員は自分達が防災やっているという姿勢だけ示せば済むと思ってんでしょうかね?それとも時間的にも住民意識を高め自主防災を理解してもらうために緊張感を持ったブラインド型訓練となると、防災課と協議会で事前の机上訓練や参加住民への事前通告といった作業をこなさなければなりませんが、今の防災課職員の数では時間も人手も足りないのが本音じゃないですか?」 「落合君は少し優しすぎるよ。役所の総務部の全予算で余っていたり、費用対効果の薄い事業であったり安く済みそうな事業があるんだから、役人にやる気があれば出来ることだと思うんだけど。」向山は、元春日区職員だった区議から情報を得ている。 「国から地方まで、役人次第の破産国家じゃギリシャと変わりませんね。EUもドイツとオーストリア以外苦しい国が多いんじゃないですか?」 「そうかもしれないな。春日区は、区長が旗振れど、職員踊らずといったところか、民主党が旗降れど官僚が踊らないばかりか、三蔵法師大蔵官僚の掌の上でいいように踊らされてしまったのと同じ構図かもしれないね。役人のスト権と抱き合わせで普通の会社同様に首もセットが理想かな。」 「今の役所の仕組みでは、各部局どうしの連携だって執れてないですよ。防災課が我々と話してますが、高齢福祉課、児童青年課、障害福祉課、保健衛生課といったところの話が我々との窓口である防災課を通して一元化されて聞こえてこないじゃないですか。要援護者や弱者の情報を入手しようとすると別々の部署に各ブロック別で交渉しなければならない状況ですもんね。」 「渋谷区は、地方公共団体の個人情報保護条例にある、保有個人情報の目的外利用・第三者提供が可能とされている規定を活用して、要援護者本人から同意を得ずに、平常時から福祉関係部局等が保有する要援護者情報等を防災関係部局、自主防災組織、民生委員などの関係機関等の間で共有する方式である関係機関情報共有方式を執ってますよ。」 「何でそんなこと知ってんの」 「渋谷区がデパートなんかと協定結んでいることやら調べていて分かったことなんです。」 「そうなんだ。話は違うけど、発災時に、自衛隊や機動隊とかいった応援部隊が何処にやってくるのかね。防災課は知りえる立場なんだから、協議会に最初に伝えなきゃ困るよ。」 「防災、防災と言ってた割には、役所も現実的に考えたことがないんですよ。これからは、防災関係行政がどの様に動いて、最終的に我々とコンタクト取るのかといったところまで含めて、地区の警察、消防、役所、の連携を構築して、如何に自衛隊に早く到着してもらうかまで考えなければと思ってます。」 「そうだよ、東北だって支援品が適切に配給されるどころか、一週間から二週間経ってやっと被災現場にまで到達したという地域が沢山あったよ。その後、自衛隊以外の医療関係、ボランティア、バイクチームの協力を受けて配給が可能になったようだけどね。地元を一番知っている役所が機能するまで相当時間がかかったようだね。」 「新潟では、自衛隊が命令以外は休息していましたが、長期間支援する自衛隊としてはしかたがないでしょうが、我々は、彼らのように仕事を限定して活動するどころか、自ら進んで何でもやらなくてはならないでしょうね。」 「大きい災害では、行政のキャパを直ぐに超えてしまう事態が生じるから当然なんでしょうね?だからこそ被災者主体のそこんところを訓練によって集約していかなければなんでしょうね。だけど、我々が選ぶリーダーに何にも権限がないから苦労しますよ。」 「これが、イギリスやアメリカだったら違うんだけどな。」 「話を戻しますと、我々、湯沢小学校を指定避難所とする16の町会で、学校の使い方を決めたけど、住民への周知徹底と学校の資機材についてのハード面の情報を把握しておくといったこまごまとした取り決めを進めていかなくてはいけないよね。」 「そうです。家が倒壊して避難して来た人、老人、要援護者、幼児、怪我人、慢性疾患で弱った人といった自主防災組織トレアージのような取り決めが必要になりますよ。」 「ともかく、弱者に付き添って学校に来た人や学校関係者、直ぐに来れたとして災害行政関係、近隣町会、自主防災組織から派遣した人で、学校に避難所本部を立ち上げてもらえるようなマニュアルを作りましょう。」 「落合君が言っているように、事前に災害関係行政や事業所、協定を結ぶ相手の実務者と顔の見える付き合いをしていかなければ、現実的な対処が難しくなっていくだろうね。」 「平時から、それぞれの地域特性を考えた上で関係者がお互いの動きについて話し合い、理解したりしていなくては適切に行動できないばかりか、災害関係行政だって混乱するだろうね。」 「そうならないように、自主防災組織としても、一緒に連携するよう働きかけをしなければならないんじゃない。」 「そうなんですけど、現状では町会単位でどうするか選択していなかったり、会議に出ても全く発言できないほど年配役員が出席しているだけで、協議会で決まったことであれ町会員や非町会員へ伝えていない町会まである始末だもんな。」 「本当に困った問題だよね。何とか旨く引っ張るしかないね。」 「警察なんかは、地域とのパートナーシップとか自主防災組織との連携や要援護者対策といった役所と同じような目的をパンフレットに載せていますけど、消防や区役所も含めた一体感を持てないでいるのが現状ですからね。」 「そのへんを進めるにしてももっと若い人が参加してくれるといいな。」 「そのうえで、協議会中心の学校に立ち上げる避難所の窓口を組織化できるよう仕組みを考えなければならないでしょう。」 「本部のブレーンを集めることから初めて、避難所運営協議会メンバーで集まれた人を中心に、学校まで来れた災害関係行政の職員とともに情報を集約し、各所属団体とのつなぎや避難所内の調整をお願いすることで協議会の形を整えることだね。」 「各町会から1~2名と弱者に付き添って来た健常者が最初のメンバーですね。」 「そうだよ。そして、各町の避難所や避難状況、道路状況といった情報を早い段階で集められればいいんだがな。」情報の集約と行政との相互通信が最重要と向山は考えている。 「医療の面で考えれば、東北で旨く稼働しなかった「広域災害救急医療情報システム」通称「EMIS」がどうなっているのか?東京が被災した時の災害医療派遣チーム「日本DMTA」や「日赤救護班」への連絡やそれを運ぶであろう自衛隊との連携や春日区内の大学病院や拠点病院の利用や協力といったことなど春日区のやらなければならないことだけど、今の役所の状況では防災会議をすれども現実的な取り組みが行なわれているようには見えないから心配だな。」 「医師会と協定したり医薬品を揃えたりしても、発災時に使える形ができあがっていなければ、絵に描いた餅ってことだね。」 「あらゆる支援を必要とする我々として、春日区のロジスティック(後方支援)としての、岩手県遠野市のような物資や人材のストックヤードについてどう考えているのか、計画があるならどうなっているか事前にある程度知っておくことも大事なような気がしてきましたよ。」  「石巻での医療チームの情報を仕入れて、それを各避難所の活動や情報収集の参考にしましょうよ。災害医療であれ、我々の町の状況であれ情報を集めるといったことで共通しているし、我々の町のあちこちでも慢性疾患やら怪我人やら自宅孤立者やらと盛りだくさんで、ブロック本部の役割として考えると共通することが多いんじゃないですか?」 「彼らの取り組みや反省点が活かせるだろうね。」 防災のことを語り始めると、まるで終わりの無い底なし沼に引き込まれるような錯覚に囚われる二人の姿である。

落合は、現在の役所の体制や部署間の横のつながりの悪さに加え、防災課職員の人数を思い浮かべた。16町会で、実際に火を着けて消火訓練を行いたいからと場所を探してもらった時も、自主防災組織の意を受けた防災課が公園課に頼みにいった時、第四中学の工事中ではあるが広くて安全、消防署の直ぐ裏で管理が簡単な場所を請求したら、適当な理由を着けて断ったことがあり、訓練後に、怒りに満ちた落合が公園での消火訓練後に、当初要求した第四中学跡地の写真を撮影して防災課へ持って行って散々文句を言っている。片や、消防は放水車まで用意してくれていた。役所の縦割りとは、こんな簡単な作業もさぼりたいのだろうか。

そんな役所を何回となく訪れている二人には、言葉を発しない新人課長と消防署から出向して来年には帰る予定の職員と民間企業から転職した職員の三人を相手に協議してきたが、特別区の防災課としての職員数の少なさに一抹の不安を抱いた。彼らは滅茶苦茶に忙しそうだ。このまま、役所全体としての平時の動きから非常時の動きに以降するといった危機意識を持った思考の変化が起こらなければ、ぼろが出る日も近いのではないだろうか?

都会に生息する自由で不揃いな遺伝子

湯沢小学校避難所運営協議会会長や副会長と度々意見交換をして協力している区議会議員は、協議会が提案したブラインド型訓練について皆賛同を示した。災害対策特別委員会副委員長上山田由美子、委員でベテランの渡良瀬ただし、湯沢天津神町会と商店会の防犯パトロールや様々な問題に協力している岡林義男も協議会の依頼を聞き入れ、防災課を後押ししてブラインド型訓練が執り行えるよう何回も防災課を訪れているところが、返ってくる返事は今年の予算から捻出できないから始まり、何年かに分割して費用調達するといったイレギュラーな方法まで様々だが、結局、三月の訓練費用を捻出することができないとのことだった。もうひとつ防災課として区内全ての指定避難所でも多少の修正をすれば使用できるブラインド型訓練のひな型シナリオ作成費用を来年度予算で請求するとも言ってきた。しかし、それでは避難所協議会に対しいつ頃訓練が出来るかの返答に詰まる。請求が通るか判らないからだ。岡林議員は、防災課と協議会の板挟みになりながらも再三両者の説得にもあたってはみたが、協議会執行部としては五月の協議会ブロック制発足からの方針を達成出来なかった場合、責任を取って向山会長以下、執行部が辞任するかもしれないとの情報を得ている。 「渡良瀬先生、湯沢小はこのままじゃ最悪避難所自体が解散するかもしれません。何かいい手はないでしょうか?」 岡林の問いに渡良瀬が答える。落合とは初当選以前からの付き合いがある。 「副会長の落合さんとは長い付き合いですが、向山会長と二人三脚で必死に自主防災組織を立ち上げてきたようなので、防災課の方針、いや、春日区の対応に対しても相当怒っていられるようですよ。区が住民に配布した避難所マニュアルは、発災してから自分で身を守り、家や周囲の安全を確認してから町の避難所本部へ行き、情報を収集したり協力して初期消火や救出活動に参加するといった住民サイドの重要なことには触れないで、いきなり自主防災による避難所運営に重きを置いているので、肝心な所が抜けている役所の都合の押しつけだと怒っていました。」 岡林は困惑した。協議会が自分以外の議員へコンタクトを・・・ 「ですから、防災の委員の渡良瀬先生に、何かいい知恵がないかとご相談申し上げているんです。」 「岡林先生、私も先日落合さんが役所に見えられ、防災訓練について説明されたときに、湯沢小で考えているブラインド型訓練の必要性について、賛成を表明しブラインド型訓練のような大事なことにこそ役所のお金を使うべきだと話したばっかりでして、防災課の答えに困惑しているところなんですよ。」 岡林も渡良瀬も同じ考えであることは確認した。 「私も訓練方法のついては、今までの役所主導の見学型訓練より住民主体で役所が後押しするブラインド型訓練が必要になると向山さん達と話してます。」 二十二階の議員控室のエレベーターから、災害対策特別委員会副委員長上山田議員が下りてきた。それを認めた渡良瀬議員が。 「上山田先生、ちょっといいですか?」 一瞬、けげんそうな顔をしたが、二人の真剣な表情に促され、渡良瀬、岡林、上山田議員の三人で応接室へ入った。 「上山田先生も湯沢小の協議会へ出席されてますよね」 「ええ、二次会までお付き合いしました。春日区で一番防災意識が高く熱心にやられていると、率直な私の気持ちを協議会の皆さんにお話しもいたしました。副会長の落合さんから沢山の資料を戴いて非常に参考になっています。先日も副会長自ら役所に来られ、防災課との訓練開催が危ぶまれていることについて話して行かれました。」 渡良瀬と岡林が目を合わせた。 「上山田先生も御存じでしたか。湯沢の協議会から防災課を通じて、区の各部署で協議会と関係することがらを一括して報告しなければ、自主防災以前の問題で協議会が肝心な活動が出来なくなっているとも言われました。」 「どうやら、協議会執行部辞任か最悪は避難所運営協議会解散の話も出てます。最悪でも一旦、休止にしてくださいと話しました。協議会は、区と学校長の協力があって自主防災組織が避難所の運営に関われるが、役所の都合を押し付けるような状況では協力できない。それどころか、各ブロックで消火や救出が優先され、その後に、弱者や安否確認して避難者名簿を作るようになり、更に後になって町が落ち着いたら避難所へといった順番が普通で、指定避難所施設の長と避難者でそれまで頑張ってもらうしかないでしょうとも言われました。これは、学校長が積極的に協議会へ協力の姿勢を見せないからです。」 不安を隠さず岡林がしゃべった。渡良瀬が話を引き取り続ける。 「それは、問題になるんじゃないですか?春日区が音頭を取って集まって戴き、十六町会という最大組織がまとまって頑張ってきたのに、今頃になって訓練費用の五十万円や百万円が出せなくて中止になりましたとか、学校長が協力的じゃないでは、我々としてもこのまま放置出来ないでしょう。春日区のHPでも3月11日の後、防災を推し進めると掲載もして自主防災組織の強化を呼びかけた春日区としての立場に影響しますよ。それどころか、議員は何やってんだってことになりかねませんよ。」 渡良瀬と岡林は、役所と自主防災組織の仲が悪くならなければと心配する。 「上山田先生、渡良瀬先生、実は小学校で地震発災時や訓練を行うために学校を使用することでも協議会と校長の意見が合わなくて、防災課が一旦話を引き取っているんですが、細部で結論に至ってないんですよ。協議会に協力してもらわなければ学校がどうなるか判りません。」 「学校は区長の権限の範囲じゃないんですか?地震に見舞われた学校は殆ど自動的に避難所になっているのに、いまさら学校長とか教育委員会とか言っている場合じゃないでしょう。区民の安全を考える上でも自明の理じゃないですか」 と上山田